平成29年8月2日に弁護士山口仁と弁護士塚本秀夫により開設しました。(千葉県弁護士会所属)

 

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損害賠償

○ 損害賠償における賠償の範囲について

 民事訴訟で,訴状に,訴訟の類型として「損害賠償請求」と記載されているのをご覧になられたことがあるのではないだろうか。もっとも,損害賠償請求と言っても,その根拠は,不法行為,債務不履行責任あるいは瑕疵担保責任など様々なのである。

 この損害賠償請求で問題となるのが,何が損害か,つまり損害賠償の範囲である。つまり,損害賠償責任を問われた者の行為と損害を被った者の損害との間に因果関係が認められなければならない。損害という結果がもたらされるためには,当該行為だけでなく様々な要因が絡み合っていることが多いから,どこまでが責任を問えるかその判断は難しい。そして,因果関係を認めたとしても,具体的な損害賠償額を認定するのも困難なのである。

 損害額を立証するのは通常原告の側である。もっとも,立証が困難なときに裁判所が認定するケースもある。民事訴訟法248条は,「損害の性質上その額を立証することが極めて困難であるときは,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害額を認定することができる」と規定しているのである。実際に,適用された例として,小児喘息の持病を持つ子がいたため,よい住居を探していた原告が,被告である不動産仲介業者の仲介を受けて土地建物を購入したが,公園の計画があったため,少しでも環境を改善すべく建物を改築した場合,説明義務違反を認めたが,損害額の立証が困難であるため,民事訴訟法248条により300万円の損害額を認定した(千葉地判平成14年1月10日)。

 不法行為の損害額の認定にあたっては,交通事故はある程度定型化しているが,それ以外ではほとんど確立されておらず,判断基準が明確でない。従って,裁判官の裁量によるところも大きい。

 例えば,銀行が投資経験のない高齢者に元本割れの投資信託をした場合,適合性原則違反や説明義務違反などによる不法行為責任が発生することがあるが,この損害について,未解約の段階で購入金額と時価の差額とした判例がある(大阪地裁平成22年8月26日)が,これは,最高裁判所の判例(平成12年3月17日)とは異なる。また,いったんホテルの施設の利用につき労働組合による予約がされた後,ホテルがこれを解約した事例で,労働組合の非財産的損害について,財産的損害の3倍に相当する額を認めた(東京高判平成22年11月25日)が,その判断の根拠が明らかでない。

 損害には,上記ホテルの事例のように財産的損害に限られず,非財産的損害も含まれる。例えば,貸金業者が貸付債権を被保全権利として債務者の預金債権の仮差押をしたことに対する損害賠償責任を追及した事例で,銀行から期限の利益喪失を通告される等の無形の損害を損害として認めた上で,損害額を25万円として認定した(秋田地判平成15年3月6日)。さらに,期待権侵害を無形の損害として認めることもある。テレビ番組の制作会社の取材対象者に対する期待権侵害による損害賠償を認めた判例がある(東京地判平成16年3月2日)。期待権侵害はこれまで医療事故の事例で取り上げられてきたものであるが,このようにその他の分野でも認められるに及んで,損害賠償の範囲の拡大が予想されるところである。

<最終更新日:平成25年6月30日>

 

 

○ 慰謝料について 

 慰謝料は,損害賠償における非財産的損害に含まれ,不法行為に原因をおくものとしては,民法710条が根拠規定となる。

 慰謝料の算定は,裁判官の広い裁量のもとにあるが,交通事故など一定の基準化が図られつつある。

 千葉県弁護士会編の「慰謝料算定の実務」では,判例・学説で一般的に論じられている慰謝料の基準として,①被害者の苦痛の程度,②被害者の財産状態,③被害者の職業や社会的地位,④被害者の年齢,⑤被害者(側)の過失,⑥被害者(側)の利得,⑦加害者の故意・過失,⑧不法行為の動機・原因,を挙げている。

 これらの基準のどれが適用されるかは,慰謝料が問題となる分野によって異なる。以下,相隣関係分野,名誉毀損・プライバシー損害分野,交通事故分野を例に挙げて,簡単にみてみたい。

 騒音・日照・悪臭等の相隣関係の分野では,①,⑤,⑦が特に重要と思われる。すなわち,①については,健康被害などが生じているか,受忍限度を超えているかなどが問題となり,⑤については,被害者が先住していたか(「危険への接近」をしたという事情がなかったか),建物の家屋構造等に問題がなかったかが問題となり,⑦については,加害者に公的規制の違反がなかったか,用途地域区分との関係で規制違反がなかったか,加害者の被害者に対する交渉経緯は適切だったか,被害の回避行為を採ったかなどが問題となる。

 名誉毀損・プライバシー損害分野では,①,②,③,④,⑦,⑧が特に重要と思われる。①については,被害者の社会的評価がどれだけ低下したか,社会生活上の不利益がどの程度生じたかが問題となり,②については,被害者が営業上の不利益をどれだけ被ったかが問題となり,③④については,被害者の職業や地位の公的性格の程度,経歴,年齢を踏まえた社会的地位を考慮に入れるべきであり,⑦⑧については,加害行為の動機・目的の悪質性,真実性の欠如の程度,加害行為の相当性,加害者の得た利益が問題となる。

 交通事故分野では,①,②,④,⑤,⑥,⑦が特に問題となると思われる。①については,後遺障害など被害の程度が重要なのは当然であり,②については,給与上の不利益に代表される逸失利益はどの程度生じたかなどが問題となり,④については余命期間の長い年少者の場合,慰謝料を増額させる要素となりうるかという点が問題となり,⑤⑥については,被害者側に落ち度がなかったか,好意同乗者であったか,保険料を受領したかなどが問題となり,⑦については,加害者側の行為の態様の悪質性,その結果に生じた事故の悲惨さの程度などが問題となる。

 このように分野ごとの基準立てはある程度可能であるものの,予測できない事情が生じることもあるし,社会状況の変化などに応じて重視すべき要素が変化することもある。従って,あまりに機械的にあてはめて判断することは危険であり,柔軟かつ創造的に考えていくべきだと思う。

<最終更新日 平成25年7月28日>

 

 

 

○ 慰謝料算定について

 平成25年8月,千葉県弁護士会編集の「慰謝料算定の実務 第2版」が出版された。これに合わせた形で,関東十県会夏期研究会(8月24日開催)のテーマとして慰謝料算定が取り上げられ,この本の内容が紹介された。

 慰謝料算定については,裁判官の裁量によるところが大きく,ブラックボックスと言われている。裁判官は算定の根拠を明らかにする必要がないのである。しかしながら,法律実務家にとってはこれでは指針が立てられないことから,千葉県弁護士会では,慰謝料算定の基準を多くの判例から紛争分野ごとに明確化しようと取り組んでいるのである(なお,交通事故については「赤い本」が重要な基準となっており,これが他の分野の慰謝料算定に影響を与えている。)。

 「慰謝料算定の実務 第2版」は,近年の判例の動向も踏まえて,分野毎に慰謝料算定の考慮要素について,一定の基準を明らかにした。しかしながら,当然のことながら事案は千差万別であり,個別具体的な事情は異なることから,その度毎に考慮要素を検討する必要がある。当事者の代理人として重要なことは,事実を具体的に挙げて,力の入った主張をしていくということになる。

 なお,関東十県会夏期研究会においては,最近の動向として,男女間トラブルやハラスメント,名誉・プライバシー,相隣関係あるいは犯罪被害者等の人格権侵害を理由とする慰謝料請求の件数が増加する傾向にあるとの報告があった。このような傾向について,パネリストの大学教授は,①個人の尊厳,②男女の本質的平等,などを根拠にして解説した。①と②のいずれも,日本国憲法の中核となる人権条項(13条,14条)そのものである。理念的かつ抽象的な条文が実はもっとも現実的かつ応用可能な条文だと言えるのかもしれない。

<最終更新日:平成25年9月1日>

 

○ 不法行為における過失について

 不法行為(民法709条)に基づく損害賠償については,訴状で①責任,②損害,③因果関係,と構成することが通常である。

 平井宜雄氏は,過失不法行為の要件について,①過失行為,②損害の発生,③過失行為と損害との間の事実的因果関係,という要素からなると述べている。過失行為を責任と捉えれば,前述した訴状の構成と重なることとなる。このように3つの要素からなるとすることは,民法709条に書かれている「違法性」と「過失」を峻別しないという点に特徴がある。

 英米法におけるネグリジェンス(negligence),フランス民法におけるフォート(faute)も違法性を含んだ過失とする点で,平井氏の主張する「過失」と同様である。実際,フランス民法の体系書では,要件として,①fauteの存在,②損害の発生,③fauteと損害との間の因果関係の存在を挙げ,アメリカ法の体系書では,①他人を不合理な危険から保護するために行為すべき基準を守るための義務の存在,②その義務の懈怠,③行為と損害との因果関係の存在,④他人に現実に損失ないし損害が生じたことを挙げている。ほとんど上記の過失不法行為の要件と重なるのである。

 平井氏は,過失について,「当該不法行為から生ずる損害発生の危険の程度,当該不法行為によって侵害された利益と損害を防ぐために犠牲とされる利益との比較衡量,加害者と被害者の行為の具体的事情等さまざまな要素が考慮され,その結果到達された価値判断が,『過失』という概念で表現されるといったほうが自体の真相に近くなった」とする。そして,過失とは,「損害回避義務という法的価値判断によって定立された義務に違反する行為」と定義するのである。

 さらに,過失の具体的な因子として,まず,ⅰ被告の行為が生ずる損害発生の危険の程度ないし蓋然性の大きさ,ⅱ被害利益の重大さ,を挙げ,両者は相関関係にあるとする。もう一つの因子として,ⅲ損害賠償責任を負わせるか否かについての高度の政治的判断,を挙げ,例として企業の事業活動に対する制約や名誉毀損における表現の自由との関係を挙げる。

 以上のような過失についての再構成の実践的帰結として,平井氏は,「『過失』をこのような因子によって規定されるところの法律上の価値判断であることを正面に押し出し,それを裁判官に訴えかけること」を挙げるのである。

 これは,実務家にとって,不法行為に基づく損害賠償請求をする上での重要な留意点を示唆している。つまり,責任論を展開する上で,ⅲ政策的見地も含めて価値判断を意識することである。また,ⅰ損害発生の危険の程度や蓋然性,ⅱ損害の重大性,のどちらかが低ければ過失はないというのではなく,両者を掛け合わせたものが重要であることを念頭におくことである。

(参考文献:平井宜雄「損害賠償法の理論」1971年)

<最終更新日:平成25年10月12日>

 

 

 

○製造物責任における「欠陥」について

 製造物責任は,過失責任に基づく民法の不法行為責任を,大量生産・大量販売が発展する中,被害者保護の見地から修正したものである。製造物責任法は,平成6年6月22日に成立し,平成7年7月1日から施行されている。その眼目は,「過失」に代えて,「欠陥」を責任要件として掲げた点にある。

 「欠陥」とは,「通常有すべき安全性を欠いていること」(製造物責任法2条2項)とされているが,具体的には,①製造上の欠陥,②設計上の欠陥,③指示・警告上の欠陥という類型に分かれるとされる。

 不法行為責任が過失責任をとったのに対し,製造物責任は無過失責任であるとされるが,因果関係だけで責任を負う絶対責任(absolute liability)ではなく,「欠陥」を要件としている以上,厳格責任(strict liability)であると言える。問題は,「過失」と「欠陥」の違いであるが,行為の属性である「過失」の判断では行為者の心理状態や能力を考慮するのに対し,物の性状である「欠陥」を判断するときにそのような行為者に関する事情は考慮しないとすれば違いは明確とも思われる。しかしながら,過失の注意義務が客観化(心理的な予見性を前提としないこと)され,抽象化され(当該行為者に特有な事情を考慮しないこと)ていることを考慮するならば,この違いはなくなると言うことができる。

 民法学者の瀬川信久教授の見解に従って,この点をみていきたい。

 まず,製造物事故に製造者の注意義務が及ぶかであるが,製造者は専門家として広範な事情につき注意義務を負うべきである。専門家として利用者の体質,使用方法等が事故につながらないよう注意する義務があるのである。

 その場合,注意義務の内容であるが,まず,事故防止措置として,製造者自身が実施する措置(代替設計,安全装置の設置等)だけでなく,消費者への指示・警告も問題になる。さらに,製造物事故は,製品の効用を享受する被害者の行為によって生ずるので,当該活動の効用と危険(費用)を比較することが必要となる。これが危険効用基準であり,当該製品の効用よりも危険が大きい時は,常に欠陥があるということになる。もし,効用が大きい時でも,事故を起こした製品の設計が,他の代替設計と比較して,効用と危険の差が大きい時は当該設計は改善可能だから欠陥がある。

 次に,注意義務の程度であるが,製造物責任の場合は,大量販売における消費者大衆の保護という要請から,客観的,抽象的なものとなる。また,製造者が専門家であり,大量の損害が予想されるために,一般の不法行為よりも高度なものとなる。ただ,製造上の欠陥の場合で,製造者自身の品質基準から大きく逸脱している製品を提供した場合には,黙示の保証に反したといえるから,製造者の予見可能性,防止可能性に関わらず,欠陥を認めるべきといえる。

 いずれにしろ,欠陥の認定にあたっては,一刀両断の判断基準ではなく,①大量生産・大量販売と連鎖型の流通機構,②製造者は専門家としてまた長年の経験から,情報と判断能力を有するのに対し,消費者は製品に対して十分な知識をもたないことからくる消費者の保護,といった製造物責任の趣旨にたちかえって,事案毎に様々な考慮をすべきである。

(参考文献:「ジュリストNo.1051」17頁〜22頁)

<最終更新日:平成26年3月2日>

 

○ 特定商取引法と損害賠償請求

1 特定商取引法の目的

 「特定商取引に関する法律」は,特定商取引(訪問販売,電話勧誘販売,訪問購入,通信販売,特定継続的役務提供,連鎖販売取引および業務提供誘引販売取引)に関し,事業者に各種の義務を課すことによって取引の適正を図り,消費者が不当な契約を締結させられることや,不測の損害を受けることを防止しようとしている(1条)。

2 民事法との関係

 ところで,特定商取引において,特定商取引に違反する行為など不当な勧誘や不公正な取引がなされた場合に,民事法により消費者がその違法な状態から自己の権利や利益を回復する方法には,主として①契約の拘束力を否定して契約を解消する方法と,②損害賠償を請求する方法の二つがある。

 特定商取引法による保護は,クーリングオフ,過量販売解除,不実告知など禁止行為違反の勧誘による意思表示の取消,中途解約など,不当な契約の拘束力から消費者を解放するという,主に①についての被害救済ということになる。

 しかしながら,契約そのものの拘束力を否定することについて,裁判所が慎重な態度を取ることが少なくない実態がある。また,事業者側の悪質性が高い場合には,契約の拘束力を否定するよりも,事業者側の法的責任及び社会的責任を明確にするという意味で,損害賠償責任を問う意義がある。さらに,不法行為に基づく損害賠償請求という法的構成をとることによって,実際に勧誘や取引をした社員や法人事業者の役員の個人責任を問うことも可能になる。

 以上のような点から,損害賠償責任を追及するという②の方法の意味は,なおも大きいと言わざるを得ない。

3 特定商取引法の損害賠償請求における意味

 では,特定商取引法は,損害賠償請求においていかなる意義を有しているのであろうか。

 特定商取法は行政取締法規の一つであるとされる。従来の学説・判例によると行政取締法規に違反することだけでは,不法行為は成立しないとされてきた。

 しかし,近時,「公法私法関係の変化」や「取引秩序の承認」,「取締規定の趣旨目的」,「憲法秩序からの私法の見直し」という観点から再検討し,その法令が消費者の基本権を事業者の侵害から保護することを目的としている場合には,その違反行為は不法行為の前提となる行為義務違反があったものとされるという見解が有力になっている。そして,取引行為につき規定されている取締法令や自主規制等による行為規制の内容や基準を不法行為上の違法性の要素やその判断基準として取り込む判例も少なくない。

 例えば,東京地判平成14年7月24日は,美顔器と附属化粧品の販売における連鎖販売による被害の事案について,「特定商取法の趣旨は,連鎖販売取引を公正にし,購入者等がうけることのある損害発生の防止を図ることにより,購入者等の利益を保護することを目的とすることにあり,かかる趣旨を敷衍した特定商取引法34条1項5号の禁止行為の規定の精神は,最大限に尊重されるべきである」と判示し,被告の勧誘方法が「同条の禁止する『連鎖販売取引の相手方の判断に影響を及ぼすこととなる重要なものにつき,故意に事実を告げない行為』に該当し,実質的に同条項の趣旨に抵触している」として,被告らの不法行為責任を認定したのである。

(参考文献:「第5版特定商取引法ハンドブック」齋藤雅弘,池本誠司,石戸谷豊 2014年)

<最終更新日:平成26年12月7日>


○ 医療訴訟と説明義務違反

1  医療訴訟は,一般的に医療事故について医療機関・医師側の民事責任を追及する訴訟である。その法的構成としては,診療契約の債務不履行に基づく損害賠償請求と不法行為に基づく損害賠償請求が考えられるが,いずれの構成によっても注意義務違反の存在が要件となり,かつ注意義務違反の内容も基本的に同一とされている。

 そして,医療機関・医師の注意義務の基準は,「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」(最高裁昭和57年3月30日判決)とされている。

2  医療訴訟では,誤診,手技上の過誤等医療行為自体の過失の有無だけでなく,医師の説明義務違反の有無も併せて争われるようになってきている。説明義務違反の根拠は患者の自己決定権という人格権侵害にある。1981年の世界医師会総会で採択された「リスボン宣言」では,「患者は,十分な説明を受けた後で,治療を受ける権利,あるいは治療を受けることを拒否する権利を持っている」と宣言された。

 説明義務の基準としては,説明義務が患者の自己決定権の前提となるものであることからすると,当該患者が自己決定をするにあたって必要と考えられる内容の説明をすべきである。従って,医師は,通常の患者が必要とする情報のほか,特にその患者が関心を持っている情報については,その希望に相応の理由があり,医師においてそうした患者の関心を知った場合には,その情報も提供すべきであるといえる。

 そして,説明義務違反の有無や内容については,医療行為自体の過失の議論と同じく,「診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準」にかなった説明をする義務があるといえる。ただ,前述のとおり,患者が関心を持っていた場合等にその情報の提供義務もあるといえるので,このような場合にはいまだ医療水準になっていない治療法についても説明義務が認められることがある。さらに,説明義務を前提とする自己決定権は,単に適切な治療を受けるかという観点にとどまらず,自己のライフスタイル等とも関係していることに鑑みれば,説明義務の範囲はさらに拡大するといえる。欧米では,自己決定という名の下に患者を放り出すのではなく,医者と患者の双方が「医療における共同意思決定」をなすという提案がなされ,その活動の実績が挙っていることも注目すべきである。

3  説明義務違反による損害についてはどう考えるべきか。まず,医師がその説明義務を尽くしていれば,患者が現に行われた治療を受けなかった場合には,結果との間に因果関係が認められることになる。この場合は,医療行為における過失と同じ内容の損害が認められることになる。

 一方で,その説明義務を尽くしたとしても,患者はなお現に行われた医療行為を受けたと考えられる場合はどうか。この場合には因果関係はなく,結果についての損害は認められないことになる。もっとも,患者はいかなる医療行為を受けるかを自らの意思で決定する機会を奪われたのであるから,自己決定権という人格権侵害を理由として精神的損害たる慰謝料が認められ得る。

(参考文献:①判例タイムズ1401号5頁〜85頁 大島眞一

      ②医療訴訟の実務 高橋譲編著  )

<最終更新日:平成27年3月22日>


○ 懲罰的損害賠償について

1 懲罰的損害賠償とは,主に不法行為訴訟において,加害行為の悪性が高い場合に加害者に対する懲罰及び一般的抑止効果を目的として,填補賠償のほかに認められる損害賠償を指す。懲罰的損害賠償は,18世紀後半にイギリスにおいて確立し,これがアメリカにおいて導入されたといわれる。

 我が国においては,制裁は刑事責任に委ね,民事責任は被害者に生じた損害の填補を目的とするとして,両者を峻別する考え方が通説であるといわれる。

 最高裁平成9年7月11日判決も,「我が国の不法行為に基づく損害賠償制度は,被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し,加害者にこれを賠償させることにより,被害者が被った不利益を補てんして,不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり,加害者に対する制裁や,将来における同様の行為の抑止,すなわち一般予防を目的とするものではない」とし,懲罰的損害賠償を否定した。もっとも,この判決の先例としての価値については,見せしめと制裁を目的として懲罰的損害賠償と明確に区別して懲罰的損害賠償を課する旨を規定する民法典が存するカルフォルニア州における,填補的損害賠償と明確に区別して懲罰的損害賠償を命じられた外国判決に関する執行事案であることに注意すべきである。

2 懲罰的損害賠償については,我が国における不法行為損害賠償額が低廉にすぎることとの関連で一考に値する。すなわち,平成25年10月30日に発表された「民事司法を利用しやすくする懇談会」の最終報告は,填補する観点からの損害賠償額では,あまりにも認定される賠償額が低廉にすぎ,将来の不法行為の抑止的効果の点からみて問題であるとしたのである。

 現在,サクラサイト被害や高齢者を狙った投資詐欺など様々な消費者被害が問題となっているが,このような業者による悪質商法を食い止めるためには,業者が「引き合わない」と感じることが必要であり,懲罰的損害賠償制度の導入が考慮されるべきとも思われる。

3 「民事司法を利用しやすくする懇談会」最終報告書でも,損害賠償算定のルールについて見直しの検討を促しており,実際抑止的付加金制度の導入なども検討される段階にある。

  また,東京高裁平成22年11月25日判決は,ホテルが裁判所の仮処分命令も従わずに施設利用を拒否した事案について,「上記の財産的損害に加えて,数学算定が困難である多大な労力と出損を強いられ,また前夜祭及び全体集会を開催することができないこととなったことによる混乱と困惑を収拾するために,数額算定が困難である無形の損害を被ったものと認めることができ,さらに前記5認定のとおり名誉及び信用の毀損とによる無形の損害を被ったものである。これらの非財産的損害のすべてを金銭で評価するとすれば,上記財産的損害の合計額である2849万15円の3倍に相当する8547万円であると認めるのが相当である」とし,慰謝料という形で実損額の2倍の追加的賠償を命じた。このような実損額の2〜3倍程度を慰謝料として実損額に付加することによって,実質的に懲罰的損害賠償による抑止的機能を持たせようとすることも可能である。

(参考文献:判例タイムズ958号93−98頁,1341号146−152頁,「民事司法を利用しやすくする懇談会」最終報告書(2013年10月30日))

<最終更新日:平成27年7月25日>

 

○ 不法行為に基づく損害賠償請求権と譲渡性

 

1 一般に債権は当事者間の合意で自由に譲渡できる(民法466条1項本文)。もっとも,「その性質がこれを許さないときは」譲渡できない(同条同項但書)。

 それでは,交通事故など不法行為を受けたときの損害賠償請求権は他人に譲渡できるのだろうか。性質がこれを許さないかどうかに関して問題となる。

2 不法行為に基づく損害賠償請求権といっても,①財産的侵害による財産的損害,②人身侵害による財産的損害,③人身侵害による精神的損害(慰謝料)に大きく別れる。①と②の場合に譲渡可能であることに異論はみられない。

 問題は③の場合にも譲渡性があるかである。

3 裁判例を見てみると,傍論ではあるが,東京地判昭和42年3月27日は,人身侵害による精神的苦痛は高度に個人的・人格的色彩の強い,他に移転し得ない法益の侵害にも基づく損害であるとして慰謝料請求権の譲渡性を否定する。一方で,東京地判昭和46年11月30日は,慰謝料請求権が金銭債権として具体化したときは,譲渡性を有するとした。

4 慰謝料請求権の譲渡性については,慰謝料請求権の相続性と一括して検討されることが通常である。すなわち,民法896条1項は,被相続人の財産のうち,「被相続人の一身に専属したもの」は相続しないと規定する。この相続性の問題と譲渡性の問題をともに「一身帰属性」の問題として扱い,かつ一身専属性を強調するのであれば,譲渡性はないという帰結になる。もっとも,判例は,慰謝料請求権の相続について,精神的損害賠償請求権であっても被害法益が一身専属であるにすぎず,結局それは金銭債権であることを理由として肯定しており(最判昭和42年11月1日),そうすると相続性も譲渡性も認められるということになってしまう。

 この点,相続と債権譲渡は別個の制度であり,それぞれの趣旨に照らして別個に扱うべきという考え方が有力である(フランスでは損害賠償請求権について,譲渡性よりも相続性の方が広く認められている)。これによれば,慰謝料請求権については,原則として譲渡性を否定しつつ,債務名義を得ている場合や和解契約等によって内容が確定している場合には,例外的に譲渡性を認めるという見解を導くことができ,3でみた裁判例とも整合性が保つことができる。

(参考文献:「不法行為に基づく損害賠償請求権の『帰属上』『行使上』の一身専属性の再検討」(立教法学44号1996年)前田陽一,「別冊法学セミナー NO.112」 153頁 森島昭夫)

<最終更新日:平成27年11月23日>

 

   責任無能力者の不法行為についての家族の責任の問題

1 不法行為が行われたとき,未成年や精神上の障害により自己の責任を弁識する能力を欠く者が主体である場合,責任無能力者として責任を負わない(民法712条,713条)。この場合,その責任無能力者を「監督する法定の義務を負う者」が,代わって賠償責任を負う。もっとも,監督義務者がその義務を怠らなかったときは,免責される(以上民法714条1項)。

  この,責任無能力者に代わって責任を負う者に関して,最近重要な最高裁判決が二つ出された。

2 まず,未成年者の責任無能力者の両親の責任についての,平成27年4月9日の最高裁判決である。

  事案は,小5(11歳11か月)のAが放課後サッカーボールのフリーキックをしていたが,ゴールに向かって蹴ったボールが道路上に出たところ,ボールをよけようとした85歳のBが転倒し,傷害を負うなどしたというものである。このとき,Aの両親が親権者として民法714条1項の「監督する法定の義務を負う者」であることは争えない。そして,従来は親権者のような包括的な監督義務者の責任は,実質的に無過失責任とされてきた。しかし,本判決は,次のように判示し,監督義務を怠らなかったという免責事由を最高裁として初めて認めた。

 「責任能力のない未成年の親権者は,その直接的な監視下にない子の行動について,人身に危険が及ばないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務があると解されるが,本件ゴールに向けたフリーキックの練習は,上記各事実に照らすと,通常は人身に危険が及ぶような行為があるとはいえない。また,親権者の直接的な監視下にない子の行動についての日頃の指導監督は,ある程度一般的なものとならざるを得ないから,通常は人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合は,当該行為について具体的に予見可能であるなど特別な事情が認められない限り,子に対する監督義務を尽くしていなかったとすべきではない。

 Aの父母であるYらは,危険な行為に及ばないよう日頃からAに通常のしつけをしていたというのであり,Aの本件における行為について具体的に予見可能であったなどの特別の事情であったこともうかがわれない。そうすると,本件の事実関係に照らせば,Yらは,民法714条1項の監督義務者としての義務を怠らなかったというべきである。」

3 次に,責任能力を欠く認知症患者の行為についての配偶者の責任に関する平成28年3月31日の最高裁判決である。

 事案は,認知症のA(91歳)が徘徊中に電車にはねられた事故で,配偶者など精神障害者の家族が民法714条1項に基づき鉄道会社に対して賠償責任を負うかが問題となったものである。

 判決は,「精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その妻が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない」として,そもそも監督義務者であることを認めなかった。

 判決はさらに,「もっとも法定の監督義務者に該当しない者であっても責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者としてその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべき」として,「法定の監督義務者に準ずべき者」の検討をした。そして,精神障害者に関し,このような法定の監督義務者に準ずべき者に当たるか否かについての基準を述べた後,精神障害者と同居した妻について,諸般の事情のもとで,「Aの第三者に対する加害行為を防止するためにAを監督することが可能な状況にあったということはできず,その監督を引き受けていたとみるべき特段の事情があったとはいえず,精神障害者であるAの法定の監督義務者に準ずべき者と当るということはできない」とした。

4 以上のとおり,責任無能力者に代わって責任を負う者についての最高裁の判断は,適用する論理は異なるものの,ともにその家族について,実際に即した判断をしたものと評価できる。

(参考文献:論究ジュリスト 2016年冬号)

<最終更新日:平成28年4月9日>

 

○ 有価証券報告書の虚偽記載と株主による損害賠償請求

1 有価証券報告書は,投資家の投資判断および株価の公正な形成の基盤となるものである。従って,虚偽記載など不実な情報の開示があれば,提出者である会社は,違法行為として株主など投資家に対する民事上の損害賠償責任(民法709条)を負う。

 しかし,投資家と会社の間には情報の格差があり,故意・過失の立証が容易でないし,また,投資家が虚偽記載と損害の因果関係を立証することは困難である。そこで,投資家の損害賠償請求を容易にしてその保護を図るとともに,不実開示などの違法行為を抑止するために,金融商取引法において,一般不法行為の特則が規定されている。

2 まず,株主は,①有価証券報告書の重要事項に虚偽記載が存在すること,②その有価証券報告書が公衆に縦覧されている間に流通市場で有価証券を取得したこと,③損害が発生したことを立証すれば会社に対して損害賠償請求できる(金融商品取引法21条の2第1項)とし,故意・過失の立証責任を転換した(同条第2項)。

 そして,損害額や因果関係についても推定規定をおいて投資家の立証責任を緩和している(同条3項)。すなわち,虚偽記載等の事実が公表された場合,その公表前1年以内に有価証券を取得し,公表日において引き続き所有する者について,「公表日前1月間の有価証券の市場価額(または処分推定価額)の平均額」から「公表日後1月間の有価証券の市場価額(または処分推定価額)の平均額」を控除した額を,損害額とすることができるとした。もっとも,当該有価証券の取得価額から損害賠償請求時の市場価額(または処分推定価額)を控除した額,既に処分した場合においては処分価額を控除した額が上限となる(同条第1項,同法19条第1項)。

3 なお,金融商品取引法21条の2第3項は損害額の推定規定であるから,会社が当該損害額の全部または一部が虚偽記載によって生ずべき値下がり以外の事情により生じたことを証明したときは,当該推定損害額は減額される(同法21条の2第5項)。この証明も極めて困難な場合が多いといえ,そのような場合には,裁判所は,口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき,相当な損害減免を認定することができる(同条第6項)。民事訴訟法248条と同趣旨の規定といえる。ライブドア事件において,東京高裁平成21年12月16日判決は,この規定に基づき,推定損害額を1割減額するのが相当であると判示した。

(参考文献:「金融商品取引法(第3版)」松尾直彦)

<最終更新日:平成28年7月31日>

 

   責任保険と不法行為

1 責任保険は,被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害をてん補する保険である(保険法17条2項括弧書)。責任保険における損害とは,被保険者が損害賠償責任を負担することである。それによって被保険者の財産が減少するからである。責任保険がカバーする賠償責任に,不法行為に基づく損害賠償責任(民法709条)が含まれることは当然である。

2 保険には,偶然に発生した保険事故に対して損害をてん補する損害保険と,人の生死を保険事故の客体とする生命保険に大きく分かれる。損害保険は17世紀のイギリスのロイズに代表されるように,もともとは海上保険から発達してきたものである。責任保険も損害保険に含まれ,代表的な例として自動車損害賠償責任保険,製造物賠償責任保険,会社役員賠償責任保険などがある。

 責任保険の特徴としては,過失責任が緩和されている例が多いということである。例えば,自動車損害賠償責任保険では,本来不法行為においては加害者に過失について立証責任があるのを,加害者側(運行供用者)にそれがなかったことの立証責任を負わせることによって,実質的に無過失責任化させているのである。これにより,加害者救済の機能だけでなく,被害者保護機能が図られている。加害者の資力を補完することにより,被害者が賠償を受けることが確実となるからである。

3 今日,産業の発達に伴い人身事故など大きな被害を含む事故が多発している。また,社会の複雑化や人々の権利意識により,新しい法的クレームがなされる可能性がある。民事上の損害賠償責任が発生しうる分野は無限大なのであるから,責任保険が発展することが予想されるのであり,その内容についても分野に応じて多様化していくと考えられる。

(参考文献 「保険法(第3版)」山下友信他 有斐閣アルマ)

<最終更新日:平成29年2月26日>

 


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